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EP08「誰かの道標」

レドナ「さぁ、終わりだ!!」

 漆黒のエインヘイトのアルファードへの斬撃。

暁「まだだぁっ!!」

 俺はアルファードに隠されていたもう一つの装備を使った。頭部の長い角が前方に回転する。
回転で砂浜は抉れ、砂埃が舞う。目の前のエインヘイトも角に当たって後に弾き飛ばされた。

レドナ「くっ、隠し玉か・・・っ。」

 黒いエインヘイトの左腕と右足が角の攻撃で使い物にならなくなっていた。
俺はその隙に立ち上がり、水色のエインヘイトの攻撃から逃げた。その間にさっきの衝撃で手放した太刀を拾う。

修「その万能さ、敵にしておくには確かに惜しいですね。」
暁「俺はリネクサスの味方になんか付かない、お前らをぶっ倒す!!」

 俺は気付いた。そうだ、この前もこんな感情だったから俺はアルファードの制御を失ったんだ。
もしかしたら、敵の目的は俺があの力を使うことにあるのではないだろうか。ならば俺は頭を冷やさなくちゃならない。
だがどうすればこの戦況を打破できるか、俺だけでは到底不可能だ。左手を失い、右手の太刀と頭部の角しか武器のない俺。
夜城のエインヘイトは潰せたが、近接型のエインヘイトと砲撃型のエインヘイトがまだ残っている。
 バリケード隊は必死に散会して赤いエインヘイトの砲撃を回避している。だが全滅も時間の問題だろう。
一体どうすれば――。

修「一騎打ちは私の得意分野です、相手をしてもらいますよ!」
暁「来るなら来いっ!!」

 水色のエインヘイトが二本の太刀を構え、真上に跳躍する。右に避けて、着地した相手を切ろうとするも左手の太刀で受け止められた。
一瞬にして今度は相手が右手の太刀で攻撃をしかけてくる。すぐに俺は後に飛んで攻撃を避けた。

修「避けてばかりでは勝負になりませんよ。」
暁「くそっ・・・・!!」

 その時、後方で爆発音がした。振り返ると、最後の一機であろうバリケードがビーム攻撃で爆発していた。

ヒルデ「さぁ、こっちも混ぜてもらおうかしら!」

 遠くに立つ赤いエインヘイトの持つ大型の銃の先端がこちらに向けられた。

修「だから、余所見はしないほうがいいですよ!」
暁「しまったっ!」

 一瞬の隙を突かれ、水色のエインヘイトの太刀がアルファードの右足を貫いた。

ヒルデ「これで終わりよ!」

 今度こそ俺は本当に終りかもしれない。もうこれ以上隠し装備は無い、目の前のエインヘイトをどうにかしても、砲撃を免れることは出来そうにない。
その時、赤いエインヘイトの銃の先端が爆発した。

ヒルデ「何!?」
修「ヒルデどうした、っ!!」

 続けて目の前の水色のエインヘイトが吹っ飛んだ。どうやらピンク色の大きな物体が体当たりしたようだ。
その物体には見覚えがあった、ハンガー内にいた4機目の疑似機神"ルージュ"だ。でも一体だれが。

結衣「鳳覇君、大丈夫!?」
暁「す、鈴山さん!?」


 EP08「誰かの道標」


 -PM08:20 陽華高校付近-

結衣「追いかけなくちゃ、私だって・・・。」

 助けてくれた鳳覇君に、私は何もしていない。せめてこの危険から鳳覇君を助けないと。
私を死ぬことから救ってくれた、私も鳳覇君を助けたい。

 鳳覇君は初めて私に光をくれた人だから。

 私は鳳覇君が置いていった自転車に跨って、ペダルに力を入れた。
さっきの電話の内容だと、海岸に行くような感じだった。ここから海岸付近まではそう遠くない。
運動が苦手な私でも十分行ける範囲の距離だった。


 -PM08:29 福岡県海岸付近 住宅地-

 やっとのことで海岸付近まで辿り着いた。しかし周りに人は全くいない。避難警報で皆出て行ったに違いない。暗い周囲でも海岸だけはばっちりライトアップされていた。
もう少し自転車をこいで海岸の砂浜が見える位置まできた。

結衣「すごい・・・。」

 海岸に並ぶニュースで見たことがある生の"バリケード"を見て私は呟いていた。明かに軍人と言わんばかりの人が忙しく行き来している。
さすがにあの人たちに見つかると、強制退去させられそうだったので、もう少し奥の方で鳳覇君を捜そうとした。
 すると、海岸にポツンと大きな飛行機が留まっている。大きさからして輸送機という言葉が当てはまりそうだった。 
 その時だ、海岸から少し離れた所で耳を劈くような爆発音がした。同時に辺りが眩しくなる。

結衣「きゃっ!!」

 反射的に目を瞑り、耳を押さえてしゃがみこんだ。そしてドスンと後に何かとてつもなく大きいものが落ちる音がした。地面が大きく揺れる。
もう怖くて今すぐ逃げたいほどだった。それでもここには鳳覇君がいる。彼をおいてはでは逃げられない。
 私は恐る恐る目を開けて、私の後に落ちた物体を確認した。

結衣「こ、これは・・・・機人・・・?」

 ピンク色の機械の巨人が民家を押し潰して、うつ伏せに倒れていた。海岸にいたバリケードとは違う形だった。
 怖いはずなのに、私の足はその機人に向って歩き出していた。民家の瓦礫を踏み台にして、徐々に近づいていく。
途中で海岸の方から爆発音が数回なっていた、その度にしゃがんでは近づきを繰り返した。
そしてようやくその機人の胸の辺りまで辿り着いた。その時だ。

淳「おーい、君!!」
結衣「あっ、ご、ごめんなさい!」

 突然白衣を着た男性に呼び止められた。きっとこの機人の持ち主だ。

淳「早く避難するんだ、もう戦闘は始まっているんだぞ?」
結衣「ごめんなさい。でも私、大切な友達を捜してるんです!」

 気付けば、私は勝手に鳳覇君の関係を友達と位置づけていた。

淳「大切な友達かぁ・・・、その子の名前は?」
結衣「鳳覇 暁っていう人です。」

 その名を口にしたとたん、白衣の男性の顔つきが変わった。

淳「君、鳳覇君を本気で助けたいと思ってる?」
結衣「はい、助けるまで私はここから逃げません!」

 そうは言っても、私の足は恐怖でがくがく震えていた。でもそれ以上に私の心は鳳覇君のことでいっぱいだった。
だから逃げずにここにいられる。

淳「もし、普通の生活に戻れないとしても?」

 私はよく意味が分からなかった、でも鳳覇君を助けたい一心で力強くうなずいた。

淳「じゃあ、それを君に託してみるか。ちょうど人手不足でね。」

 白衣の男性は私の後にあるピンク色の機人を指差した。

結衣「私に・・・これを?」
淳「あぁ。鳳覇君は今別のに乗って戦っている。どうやら戦場の情報だとかなりやばい状況でね。
  それにこれに乗るはずだった人もちょっと大怪我しちゃってさ。やる気のある子を捜してたんだ。」

 白衣の男性も瓦礫に足を踏み入れ、私の傍までやってきた。

淳「それは機人じゃなくて、疑似機神っていう特別なものなんだ。
  名前は"ルージュ"、後方支援機だから、今君がしたいことと同じだ。」

 解説をしながら、白衣の男性はルージュと呼んだ疑似機神のコクピットを開けた。

結衣「でも私、操縦なんてやったことありません・・・。」
淳「大丈夫、こいつは乗っている人"ドライヴァー"の脳波を感知して動くんだ。
  自分がしたいと思えば、こいつもそれに反応する。」

 一息ついて、白衣の男性は続けた。

淳「ただ、さっきも言ったとおりこれに乗ってドライヴァーとなると、普通の人間ではなくなる。
  大怪我でも心臓さえ動いていれば数日で完全回復するようになったりね。」

 心臓さえ動いていれば完全回復する、鳳覇君も死ぬほどの重傷だったのにすぐに回復していた。

淳「後は一度乗ると決めたら、以降は君が死なない限りずっと君しかこれを動かせなくなる。
  どう、できそう?」
結衣「・・・・・わ、たしは・・・・。」

 心臓がバクバクしている。たぶん今が人生最大の分かれ道だ。ルージュに乗るか否かの道。
鳳覇君を助けるにはこれに乗るしか方法はない。それでも乗ればずっと戦わないといけなくなる。
 その時だ、鳳覇君の声が心に響いた。

 ―俺は鈴山さんの目標になる―

 強い鳳覇君は弱い私の目標でいてくれる、私は鳳覇君に追いつきたい。鳳覇君を失いたくない。

結衣「やります・・・・。私、これに乗ります!」
淳「うん、君の目は本気で鳳覇君の事を思っている。君にルージュを託せてよかったよ。
  それじゃ、ここに座って。」

 私は胸から突き出した搭乗席の中に座った。すると瞬時に頭の中を何かが突き抜けたような感じがした。気付いた頃にはすでにこれの動かし方が分かった。

淳「よし、後は海岸にある半壊した輸送機のとこまで来てくれるかな。
  そこで銃器を受け取ってくれ。」
結衣「はい、分かりました!」

 動かそうと思うと、搭乗席はルージュの胸の中に吸い込まれていった。そして周辺のモニターが光りだす。立ち上がろうと思うと、本当にルージュは立ち上がった。
方向を変えて、海岸に向けて走り出した。
 海岸にはさっきの輸送機が半分抉られている状態になっていた。その付近まで行くと、内部に銃身の長い銃が置いてあった。それを手に取ると通信が入った。

雪乃「初めまして、ルージュのドライヴァーさん。早速だけどそのスナイパーで赤い敵を狙ってちょうだい。
   二本の角がある機体が鳳覇君の機体よ。」
結衣「はいっ!」

 言われた通り、スナイパーを構えた。向こうには二本の角の機体が水色の機体に押さえられている。赤い機体の持つ銃の先は鳳覇君の機体があった。

結衣「させない、絶対に鳳覇君を守る!!」

 スナイパーの照準を合わせ、トリガーを引いた。弾丸が高速で銃から離れ、赤い機体の持つ銃に直撃して爆発した。赤い機体がよろけている。
それを目で追いかけている水色の機体。
 私はその機体に目掛けて体当たりをした。膝部分にあるシールドのようなものでルージュ自体にダメージはなかった。火花が散り、水色の機体は砂浜に倒れこんだ。

結衣「鳳覇君、大丈夫!?」
暁「す、鈴山さん!?」

 通信から聞こえる鳳覇君の声に、私の心はほっとした。

-

暁「なんで鈴山さんがルージュに!?」
雪乃「鳳覇君、話は後よ。えっと鈴山さん?青色のドーム状のものが見えるかしら?
   その天辺にある装置をスナイパーで破壊して。」
結衣「分かりました!」

 ルージュがスナイパーを構えてゲッシュ・フュアーとスティルネスを取り囲むドームの天辺の装置を射撃した。

修「新手ですか、だがその動き、初心者と見えますね!」

 水色のエインヘイトが起き上がり、ルージュに太刀を突き刺そうとした。

暁「させてたまるかっ!!」

 ルージュと水色のエインヘイトの間に入り込み、角のブレードでその太刀を防いだ。

結衣「鳳覇君!」
暁「俺は大丈夫、鈴山さんははやく装置の破壊を!」

 大丈夫とは強がってみたものの、さすがにアルファードも限界といったところだった。

暁(アルファード、お前の力はこんなもんじゃねぇだろ・・・・!!)

 握り締めるレバーに力を入れた。その時だ。

結衣「当たった!」

 遠くで爆発音がした。そして水色のエインヘイト目掛けてミサイルの雨が飛んでくる。
水色のエインヘイトが左にジャンプして交わす。同時に俺も後に下がった。

佑作「サンキュー!ルージュのドライヴァー!」

 ゲッシュ・フュアーのバリアが解除されたようだ。

修「くっ、破られましたか・・・。」
佑作「神崎さん!!」

 ゲッシュ・フュアーの両腕から放たれるミサイルがスティルネスを囲んでいたバリアの装置を破壊した。

静流「助かった、寺本。さぁ、反撃だ。」

 スティルネスが太刀を構え、一気に水色のエインヘイトの所まで飛んできた。背中の巨大なブースターが火を噴いている。エインヘイトは太刀で突撃を防ごうとした。
だがスティルネスの太刀がそれを弾き飛ばした。

修「くっ!!」
静流「お返しだ。」

 スティルネスの手首が90度曲がり、腕の装甲からビームの刃が現れた。その刃は水色のエインヘイトの首を切断した。

ヒルデ「ったく、作戦が台無しじゃないか!」
佑作「成功させてたまるかよ!」

 赤いエインヘイトにゲッシュ・フュアーの巨大な手のパンチが叩き込まれる。

レドナ「ヒルデ、修、伏せろ!!」

 突然の夜城の声、次の瞬間海中から8本ものビーム攻撃が現れた。

静流「ぐっ!」
佑作「な、なんだよ!?」

 スティルネスは太刀でガードし、ゲッシュ・フュアーは腕の装甲で攻撃を防いだ。

暁「鈴山さん!!」

 俺はルージュの前に出て、鈴山さんをかばった。ビームの攻撃がアルファードの右腕を吹き飛ばした。

結衣「鳳覇君!!」

 海中から水しぶきが上がる。さっきのビーム攻撃の正体が現れた。

ヒルデ「グラド、遅いわよ!」
グラド「さっき出撃命令がでたばかりでな。
    お前たちは帰還しろ、時間は俺が稼いでやる。」

 グラドと呼ばれた男が乗っているであろうその機人、ゲッシュ・フュアーに負けず劣らずの重装備であった。
両手に火器を持ち、両肩、両足、背部にもコンテナやビーム砲が着いている。

暁「な、なんだよあの機人は!?」
雪乃「あれは機人じゃないわ、リネクサスの機神"カタストロファー"よ!!」
佑作「リネクサスが機神を?」
静流「遂に奴等も本気というわけか・・・。」

 現れた紫色の機神カタスロトファー、言われて見れば機人とは違う何か特別なオーラが感じられた。

修「レドナ、掴まってください!」

 カタストロファーの後に逃げる3機のエインヘイト。夜城のエインヘイトは水色のエインヘイトが連れて行った。

グラド「さぁ、離脱するまでの数分間お相手願おう。」

 カタストロファーの装備の銃口が光りだす。

雪乃「鈴山さん、膝のシールドを使って!」
結衣「は、はい!」

 ルージュのアンバランスさを生み出していた膝の大きな装甲が展開する。

雪乃「寺本君、神崎君、シールドの後へ!」
グラド「ファイア!」
結衣「フィールド展開!」

 ルージュの前方に展開したバリアがカタストロファーの攻撃を防ぐ。

静流「鈴山と言ったな、あとシールドはどれくらい持つ?」
結衣「えーっと・・・、現在展開率96%、あと2分は持ちます!」
淳「ちょっとまってくれ、まだルージュのバリアフィールドは試作段階だ。
  過信はできない、後30秒とみておいてくれ。」

 徐々にシールドのピンク色が薄くなっているのが分かってきた。

静流「鈴山、50%を切ったらシールドを解除しろ。
   寺本はシールド解除と共に一斉砲撃だ。」
佑作「はいっ!」

 ゲッシュ・フュアーが膝のビーム砲と腕に内蔵されたミサイルポッドを展開して待機した。

エルゼ「グラド、撤退して構わない。3人は無事収容した。」
グラド「了解、カタストロファー撤退する。」

 突然砲撃が止んだ、だが砂埃で視界は全然見えない。

暁「終ったのか・・・?」
雪乃「撤退を始めたようね、こっちも引き上げるわよ。
   もうすぐしたら、別のガルーダが到着するわ。」

 通信を聞いて、ルージュはシールドを解除した。ゲッシュ・フュアーも武器を納めた。
 言われた通り、数分後にガルーダが到着した。全機ハンガーに収容された。
アルファードは歩けなかったのでゲッシュ・フュアーとルージュに支えられて最後に乗り込んだ。
 ハンガーについて、アルファードを固定してから俺は降りた。

結衣「鳳覇君!」

 地面に付くなり、ルージュから降りた鈴山が駆け寄ってきた。

結衣「鳳覇君大丈夫?怪我はない?」
暁「あぁ、俺は大丈夫だけど・・・・。」

 俺は傷ついたアルファードを見上げた。装甲はボロボロになり、立派に弧を描いていた角も溶けたように曲がっている。
足には刺された穴が生々しく残り、左腕は完全に大破している。

佑作「心配ないって!機神には自己修復機能が付いてんだよ。
   ちょっとやそっとの傷ならすぐ治るけど・・・。」

 寺本もアルファードを見上げた。

佑作「これじゃ、一週間はお寝んねかもね。」

 苦笑しながら寺本が言う。こっちにとっては苦笑の一つもできない。

静流「寺本、鳳覇、ミーティングルームへ行くぞ。作戦結果の会議だ。
   あと鈴山、お前にも話があるそうだ。一緒に来い。」

 それだけ言うと、神崎はすたすたとハンガーを出て行った。俺たちもその後に続いた。

暁「ところで、今日は司令さんは来てないのか?」

 ミーティングルームへ向う途中に俺は聞いてみた。いつもならば来ずとも通信の一言ぐらいよこしそうなのに。
それに輝咲の姿も見当たらない。

佑作「そうっぽいね、でも榊さんと一緒にいたの見けど。」
暁「ふ~ん、何なんだろうな?」
佑作「あれ~、まさか愛しの榊さんの事が気になる?」

 にやけた顔で寺本が言ってくる。

暁「ちょ、お前!!」
結衣「へっ、ほ、鳳覇君・・・彼女いたんだ・・・。
   ご、ごめんね、抱きついちゃったりして・・・。」

 その言葉を聞いて鈴山は顔を赤らめて下を向いた。

暁「彼女じゃないって、だからそんな謝るなよ。」
佑作「二人もゲットか~、羨ましいな~。」
暁「て~ら~も~と~!!」

 俺は口数の減らない寺本の後に飛びつき、首に右腕を回して締め上げた。

佑作「ご、ごめんごめん!冗談だっで!ギブギブ!ごんどに、がじで!!」

 自分より一歳年上らしいが、身長が低いためすぐに技がすんなりと入る。当然まだ俺はやめるつもりはない。

静流「2人とも、その辺にしておけ。
   鈴山、今の言葉は本気にしなくていい。」

 この喧嘩の仲裁役が神埼になったのは意外だった。俺も寺本もぽかんとして神崎を見た。
それに最後はフォローまでいれてくれていた。人は見かけによらず、という言葉を改めて理解した。
 言われた通り、寺本から腕を外した。

結衣「ふぅ、よかった・・・。」
暁「ん、何か言ったか?」
結衣「え、いや、ちょ、ちょっと独り言を、あはは・・・。」

 何か呟き声が聞こえた気がしたが、俺は特に気にせずミーティングルームへ歩き出した。


 -PM09:19 ARS輸送機ガルーダ ミーティングルーム-

 輸送機の中のくせにミーティングルームはとても広かった。大きい長机がずらりと並び、正面には大きなモニターまである。
部屋に入ると、モニターの前の椅子に有坂、佐久間、そして御袋茜が立っていた。

静流「神崎、寺本、鳳覇、鈴山4名ただいま戻りました。」
雪乃「ご苦労様。さ、皆も席についてちょうだい。」

 左の椅子に寺本と神埼が、右の椅子には俺と鈴山が座った。

雪乃「さて、今回の被害は死者0名、負傷者はガルーダクルー4名とバリケードパイロットのみ。
   あとは民家3棟全壊。まぁ許容範囲よ、皆頑張ったわね。」
茜「頑張ってるわりには、アルファードはボロボロだけど。」

 イライラした様子で御袋が言う。俺もその姿に初めて御袋に対してイラっときた。

淳「まぁまぁ、茜さん落ち着いて。」
茜「今度からはもっと頑張って被害を少なくしてほしいわね、暁。」

 御袋の目線が俺に注がれた。俺はふくれっ面をして目をそらした。俺の頑張りは認められていないようだ。

雪乃「被害報告に関してはここまで。今後も現状維持に心がけてね。
   それじゃ、次は鈴山さんの処置について話しましょうか。」

 空気が悪くなることを察した有坂は、話しを切り上げた。副司令という立場だけあって、切り替えは早かった。

雪乃「鈴山さん、まずは私達ARSを助けてくれてありがとう。」
結衣「は、はい・・・どういたしまして。」

 照れくさそうに鈴山は座りながら一礼した。

雪乃「あの時は急いでいたから詳しい話しは聞けなかったと思うけど、鈴山さんにはこれからもルージュのドライヴァーとしてARSに入ってもらうわ。
   その覚悟はできてる?」
結衣「はい、大丈夫です。」
淳「うんうん、きっとルージュも君をドライヴァーにできて喜んでいると思うよ。」

 にこやかに佐久間が言った。そういえばルージュは後方支援という役柄で志願兵から好まれていないという話しを聞いたことがある。

茜「ルージュの意味は知ってる?」
結衣「えっと・・・口紅、ですよね。」

 茜はそのとおりと頷いた。

茜「ルージュは後方支援をメインとする機体、一見役に立たないように見えるけど、それは違うわ。
  どんなに綺麗な服を着て、可愛いメイクをして、髪を染めたとしても口紅がなかったらイメージはガラッと変わるわ。」

 有坂と結衣はもっともと言ったように頷いた。男性軍はさっぱりといった感じだ。必死に頭の中で連想してみるがピンと来ない。
今度岸田に聞いてみようと思った。

茜「戦いも同じ、どんなに強い機神・疑似機神がいても、後方支援があるのと無いのとでは大きく違ってくるの。
  後方支援という役柄は、とても重要なものとなるわ。」
結衣「どんな役柄であっても、私はこれからもルージュで戦います。
   目標にした大切な人に追いつきたいんです。」

 その言葉に俺はドキッとした。目標になってやると宣言したのは俺だ。

茜「うん、それを聞いて安心したわ。
  これからも頑張ってね、鈴山さん!」
結衣「はいっ、よろしくお願いします!」

 こうして、鈴山 結衣もARSの正式なメンバーとなった。


 -PM08:42 ARS本部 司令室-

輝咲「司令、私達も行かなくていいんですか?」

 私は優雅にお茶を飲んでいる吉良司令に言った。数十分前にリネクサス反応が確認されてガルーダが福岡地方に飛んで行った。

剛士郎「私の五感がどうも君がここに居たほうがいいと言っているんだよ。
    それに鳳覇君という新米エースがいるからね。」
輝咲「私は暁君のことが心配です・・・。まだ実戦経験も浅いですし、暁君の機神は危険すぎます。」

 さっきから私は暁君の事ばかりを考えていた。今すぐにでも福岡地方に行きたかった。
吉良司令とは違って、私の五感は嫌な予感がしていた。何だか暁君に別の何かが取り付くような、そんな気がしてならない。

剛士郎「まぁ、彼なら大丈夫だ!私が認めた男の一人だからな!」
輝咲「大丈夫かな・・・鳳覇君。」

 私は根拠の無い司令の発言を無視して、窓の外を見た。この暗闇のはるか向こうで暁君は戦っている。


 -PM09:23 リネクサス 巡洋潜水艦内部-

ヒルデ「あーあー、惨敗ね。もう嫌になっちゃうわ。」
修「仕方ないですよ、今回はARSに運があったと思いましょう。」

 イラついているヒルデを修が困った顔でなだめようとした。

レドナ「くそっ・・・。」

 俺は思いっきりノワールの装甲を叩いた。また打ちのめし損ねた。

グラド「自分の力の弱さを悔やむか?」

 大男グラドが俺の姿を見て言った。どうやら人の目には弱者に見えているらしい。
それよりも弱者以外に今の俺をどう表現しろというのだろうか。自分でも可笑しくなった。

レドナ「悔やみはしない・・・だが――。」
エルゼ「だが、機人で戦うには限界が来た。と言いたいところか。」

 俺が言いたかったことを歯に衣着せず言った人物が居た。エルゼだ。

レドナ「・・・・。」

 俺はただエルゼを見た。思っていることは同じだが、それに頷きたくはなかった。

エルゼ「別に悪いことではない、雛はいつまでも巣にいては成長しないからな。
    鳥というのは巣から離れて初めて真価を発揮するものだ。」
レドナ「何が言いたい・・・?」

 言いたいことは何となく分かっている。だが真実を知りたかった。

エルゼ「機人という巣から飛び立ちたいか?夜城 レドナ・・・。
    ふっ、次の巣も漆黒の巣だがな。」

 遠まわしに機神に乗らないか、という勧誘であるのは推測できていた。だがエルゼはそれだけを言っているのではない。
ドライヴァーになるという人間という巣からの巣立ちも含めて言っているのだろう。
 その機神は漆黒の色をしている。そしてドライヴァーとなる俺の道も漆黒の色をしているわけか。

レドナ「あぁ・・・・俺の心の暗闇はどんな漆黒さえも覆い隠すからな。」

 面白い、この先何が来ようと俺は俺の漆黒で染めてやる。俺がどんなに暗闇だろうと、レイナが光をくれるから。


 -AM00:23 鈴山家 自室-

 私はようやく訪れた一人の時間に、初めて物寂しさを感じていた。ARSはとても温かい場所だった。
私を必要としてくれる。それが戦いの道具だったとしても、私は全然構わない。戦うといっても誰かを守る戦い。
それに私は鳳覇君を守れる立場だ。

結衣「鳳覇君・・・。」

 鳳覇君にしがみ付いた自分の手を見つめた。私に光をくれた人に触れた自分の手を。
気付けば私は今日の大半をずっと鳳覇君のことばかり考えていた。
 自分でも今の気持ちは整理し辛い。初めて味わうこの感覚。ずっと鳳覇君の傍に居たい気持ち。

結衣「恋しちゃったのかなぁ・・・私。」

 ベッドに倒れこみながら、そんな事を思っていた。きっとこれが人を好きになるってこと。
明日も鳳覇君に会えると思うと、すごく気が落ち着いた。そしてそのまま夢の中へと落ちていった。


EP08 END


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